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病院たらい回し事件について
お産の最中に脳出血を起こした妊婦が19ヶ所の医療機関から受け入れを断られ、結果的に妊婦は死亡してマスコミ等で大きく報道された事件です。亡くなられたご本人、ご家族のお気持ちはいかばかりかとご同情申し上げます。この事件を通じて報道する側の立場とされる側・・・この場合は医療機関・医師です・・・から事件を見るとき生ずる違和感について私なりに述べてみます。
この妊婦を救うには早急に適切な処置が必要で、小児科、産婦人科、内科、脳外科医の待機する医療機関で無ければ完璧な救命処置は無理でしょう。我国ではお産の多くは産科医と助産婦が扱っています。輸血、帝王切開手術などの救命処置もすぐに出来ます。万が一の時も後方支援の病院もあって昔のような妊婦が不幸な転機をとることは稀になりました。しかしこの例のような真夜中のお産に脳出血の合併・・・産科医の想定内にあったとしても実際は稀であり、事件は病気の内容、時間、地域など複合した不運が重なり合った不幸としか思えません。
多くのマスコミ報道の内容を検討してみると、建設的意見としてはみるべきものはなく、診療を断った医療機関への非難や産科医を増員せよ、あるいは設備の整った大病院を造れとか、日本全国隅々まで超一流の治療が受けられるようにすべきだとか夢のような記事ばかり・・・そんなに直ぐベテラン医師・大病院が増やせるものか・・・資金・教育などなど問題は山積みしております。例えば医師免許をとった医師の卵が産科や小児科に進もうと思う環境が無ければ増えるわけがないでしょうが。
本音を申しますと・・・医師だって経済的条件・家族の事情などで将来の進路を決めるのです。情熱だけで動くのではありません。現実、卒後10〜15年(35歳)の勤務医の給与は同年一般サラリーマンと変わらず、しかも不規則長時間労働・責任のみ厳しく問われる職場でやる気も希望も徐々に低下しています。
政治家もマスコミも患者と医者なら前者が多数であり、味方につけるなら前者に迎合し易くなるのでしょうか。彼等は常に医療費の値上げには反対します。近年の医療費の削減は病院経営を圧迫しています。高い給与は払いたくとも、払えないのです。ですから建設的な意見を述べるなら「資金的背景」はもとより、「医師の卵の心情」まで幅広い深層も含めて論じていただきたい。
小児科医が足りない→それでは小児科医の人数分入学定員を増やせという。しかし卒業の暁には小児科に進んでくれる保障はありません。自治医大の例を見てみれば判るでしょう。無医村や僻地へ赴任する約束で奨学金付推薦入学したはずですが、決められた一定期間を過ぎれば多くは都会へ戻ってしまう事実。いやお金さえ払えば僻地にいかなくとも済むのです。防衛医科大学に至っては全て税金でまかなわれ、学生のうちから給料も出て最初から戦争に行くつもりなぞなく、一般開業、勤務医が目的です。戦争になったら戦場で命をかけて働く・・・が軍医不足のためわざわざ防衛医科大学を創ったわけでしょう。人の心はお金や政策で変えるのは難しいのです。
さて本論に戻りましょう。ここで取り上げた事件であなたが妊婦を引き受ける立場の「医師」になったとして以下の記事を読んでください。
患者はお産の途中で脳出血を起こしているんですよ。しかも夜間で当直はあなたひとり・・・どうします?私はあなたは絶対に引き受けないと思いますよ。「設備は十分でないし、当直は私ひとりですが私の出来る限りがんばりますから、とにかく早く入院してください」なんて言う医師はまずいません。なぜなら医師の善意や努力はしばしば結果で評価されマスコミは「もっと十分な設備の整った病院に送るべきだった」と非難するだろうし、訴訟にひきこまれるやも・・・。
この件でも妻を失った夫は「早く入院すれば助かった」と言っています。マスコミでもそう述べている記事もあります。しかし「あなたが医師」なら気付く・・・「早く入院すれば助かった可能性があった」と言うべきと。大きなショックの夫はさておきマスコミまでが便乗・・・としか思えない・・・「助かった」と書くのはいかがなものか。「私のマスコミ不信」は医師悪者ムードをあおる意図さえ感じてしまうのです。
出産中という特殊な状態で脳出血し「早く手当てすれば救命できた」と、何を根拠に言えるのか、また医者と病院を増やせば解決なんて絵空事を記事に書けるのか、もっと真面目な討論にしていただきたい。根は深いのです。
いたずらに患者・医師間の不信をあおっても問題解決にはなりません。妄言多謝
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