近年耳鳴りで耳鼻科を訪れる人が増えています。高齢化社会への流れの一端でしょうか。耳鳴りは経験した人でないとその辛さは理解してもらえないのが歯痒いですね。耳鳴りの患者さんは耳鼻科ではむずかしい患者さんらしいのです...その理由は色々ありますが、まず耳鳴りがはっきりつかまえにくい対象だからです。目に見えません、機械を使っても存在を確かめにくく、もっぱら患者さんの訴えに頼るだけですから...。一方、患者さんにしても、「ちょっと出して見せてごらん」と言われてもねえ...出せる訳もなく困ってしまいます。原因も複雑で、中耳炎・外傷・脳障害・血圧・更年期障害・心の病気・ストレス・等、数えあげたらきりがなく、こちらも捉えどころがありません。ですから一生懸命に治療をしてもスッキリとした結末に終わらずしつこく続くので、医師・患者の双方がウンザリしてしまいます。上の次第に加えて、医者の中には「何?耳鳴り?アー駄目。治りません。」と一発門前払いしてしまう人もいて...患者さんはますますへこんでしまう訳です。
私は
◎「耳鳴りは治せる」と患者さんと一緒に努力する。
◎治せなくとも軽くして日常の苦しみをやわらげる。
◎薬ばかりでなく精神的な支援をする。 の3点をモットーに治療をしています。
耳鳴りの治療は来院して頂かないと出来ませんが、合併する病気はさておいて、耳鳴りに対する基本的な心構えについて申しますと、特に大切なのは精神的な面でしょう。例えば、今あなたはこの一文を読んでいますが、ちょっと目を閉じて下さい。「今、あなたの身体の何処かにかゆい所がありませんか?」と問われたらどうですか...ほら「かゆい所」が出てくるでしょう。耳鳴りも同じように、昼間、仕事に忙しい間や友人と楽しく食事中に耳鳴りは襲ってきませんが静かな場所に独りになると耳鳴りが気になってくる...という患者さんが大多数でしょう。意識外にあったものを「あれ?耳鳴りは何処へ行ったかな」と捜す態度...意識上に引っ張り出すこと...も耳鳴りにやられてしまう一因なのです。私も実は以前から耳鳴りはあり、夜に布団に入って意識すると出てくるのですが、他の事を想いだしているうちに寝てしまうので全く耳鳴りには悩まされません。耳鳴りは確かに手強い相手ですが強く気にして敵対的な気持ちを持つと、ますますはまってしまいます。
耳鳴りは珍しい病気ではなく50歳過ぎた一般の人達の恐らく半数に存在すると思われますが多くは気にもかけず、耳鼻科にも来院しません。が、私は耳鳴りを軽く見ている訳ではなく重大な病気が背景にある場合もあって、常に慎重に対応しております。一般に耳鳴りがあっても聴力が正常ならまずは心配は少ないのですが、耳鳴りの型として連続性耳鳴りと拍動性耳鳴りがあり、それぞれ原因も治療も違ってきます。