今頃は学校で春の身体検査の真最中です。子供が持ち帰る「身体検査の結果」を手にする保護者さんも多いことでしょう。そこには蓄膿症・中耳炎・扁桃腺肥大と並んで耳垢(あか)に○印がつけられているのが最も多いはずです。ところがこれに対する反応は甚しく軽く「あれまあ耳垢とるのを忘れてたわ」とか「耳クソがたまっているらしいよ」といった程度です。
「耳垢」に印がついた裏には大事な意味があるのです。
•この人の耳には耳垢がつまっていて鼓膜の所見(中耳炎・穿孔・奇形など)を診察出来ませんでした。
•夏に向かいプールに入る機会に際し汚水などで耳垢がふやけて外耳炎や鼓膜炎を起すことがありますよ
•きっちりつまっていてやや難聴を生じているかもしれません
•どうしてこんなに奥の方の本来耳垢が存在する筈の無いところに耳垢塊があるのでしょう。耳垢取りと称して耳垢を押し込んではいませんか?
•耳垢は自然に排泄されほとんど取る必要のないものなのに余計な耳堀りしていませんか?
ちょっと挙げてみても以上のメッセージが込められているのです。
上図をみて下さい。
先ず外耳道は2~2.5㎝程の深さの突き当たりが鼓膜で終わる孔です。
入口より1/3位は耳介(耳たぶ)に続く軟らかい軟部外耳道で、ここには外方に向かって毛が生えております。耳垢はこの部分で頭のフケのように生じてきます。耳たぶが動くと軟部外耳道の耳垢は入り口に向かって生える毛の動きに巧みに誘導され出口に自然に排泄されます。即ち、いちいち掘らなくてもよいのです。
毛の林を通り過ぎて奥に進むと周りが硬い骨で囲まれた骨性外耳道になり、皮膚は極めて特徴的で耳垢を生じませんし毛も無く汗も出ません・・・耳の奥から汗が出たら困りますよね。
また、そこまで押し込まれた耳垢は容易には自然の排泄は期待できません。
以上から耳垢を除去するとしたら自然に入り口に出てきた部分を「つまみ取る」位で奥の方はあえていじる必要はなく、取りきれなければ放置しておけばよろしいのです。
私の診療所は月20人位の子供が耳掃除により外耳道や時には鼓膜を傷つけて来院します。犯人は多くの場合母親です。そしてこう弁明します。「動いちゃ駄目よと言ったのに―」・・3・4歳の小児が「判りました動きません」が出来る訳ないでしょう!!そして月に1-2例は鼓膜の損傷=破る・・・程のひどい例があります。全国的にみれば大変な数でしょう。
しかし幸いな事に、鼓膜の傷は完治することが多いうえ、多くの例は自分の子供ですから・・・
隣の子供だったら裁判沙汰ですぜ・・・話題になりません。
私が残念に思うのは「やる必要ない行為」により多くの子供達が被害を受けている事実です。ある有名な小児耳鼻科教授は「幼児の耳垢堀りは犯罪である」とまで言い切っております。納得出来る忠告だと思います。
最後に人間を除き自然界の動物達は耳垢取りをしていますか?
キリン・モグラ・クジラ・・・耳垢なぞ掘らなくとも一生無事に過ごします。人間も動物・・・耳垢を除去しなかった為に死んだ人なぞいませんよ・・・