私が耳鼻科医として第一歩を踏み出した45年前に、新人医師が最初に教わる手術は、アデノイド・扁桃腺の手術でした。そしてこの手術をする意義として….風邪をひきにくくする、鼻づまり、口呼吸をなくす、頭を良くする、おねしょを治す…など挙げられておりました。その後、成長、促進、情緒不安定改善、アデノイド様顔つき(小さい顎と開口)の修正をするためとか、遂には国家的規模で「屈強な子供を育てよう」とこの手術が推奨されたいきさつがあります。しかし、その後手術が頻繁に行われたことに対する反省、反動から、また、上述の如き手術効果についても、客観的な評価が確かめにくいこともあり、徐々に手術が控えられるようになりました。
近年ではある程度の手術効果が認められた…高熱を伴う反復性扁桃炎、難治性中耳炎(滲出性中耳炎を含む)、高度の鼻閉、そして腎障害、掌蹠膿疱症(手足に湿疹ができる病気)などの病巣感染源除去に限られる傾向が強くなり、更に加えてアデノイド・扁桃が免疫に関わる点も強調され、手術数は激減しました。現在30~40歳代の方までは、本人も含め周囲で手術を受けた仲間が多いと思いますが、御自分のお子さん達となると少ないのはそういう訳なのです。
先に手術の効果として並べたなかには正しそうなもの、怪しげなものもありますね。そこで十年余を費やして、米国小児学会、国際睡眠障害学会、他多方面の協力で、この手術に対する意義、効果の詳しい再評価がなされました。この資料に更に補足する多数の臨床上の調査も付け加えられました。そして判ってきたことは以下の通りです。
アデノイド・扁桃の手術は総合的に見て70~80%は「良い結果をもたらす」と結論されました。内容を具体的に述べますと…
* 正常な睡眠とバランス良い身体の発達
* 顔つきの改善(小顎、出っ歯)
* 精神的安定(イライラ、キレる、落ち着きがない、…などが治まる)
* 学校の成績が良くなる
* 鼻炎、咽頭炎、中耳炎になりにくくなり、医療コストが削減できる
* 焦点感染の除去
となります。
どうですか、私達が以前から経験的に良い効果として囁いていた事項が、かなり評価されましたね。学校の成績が良くなる、なんて嬉しいじゃないですか。
実は告白しますと、私が過去に手術した症例をふり返ると、経験的にではありますが、耳、鼻に対しては、もとより心身ともに好結果を得た印象があります。学会で主張されたアデノイド・扁桃が担う免疫力にこだわり過ぎて、必要な手術を避けたこともあったかと反省しています。