最近の健康に対する異常なまでの関心の高まりは、健康食品・サプリメント・怪しげな治療など・・・際限なく拡がりをみせています。またそれをあおるようなマスコミもどうかと思うこともあります。・・・例えば納豆ダイエット、バナナダイエットなどなど・・・・。その影響でしょうか・・・私たちの外来では「喉頭違和感→癌?」を心配して訪れる患者さんが増えています。その来院のきっかけはマスコミの扇動?報道の記事と自分の症状がピッタリだというのです。
この「病気」の特徴は・・・
•違和感があり受診してみたいが「恐ろしい事実」を告げられるのが怖くて躊躇している。
•最近、身近な人が癌で亡くなっている。
•上述のように健康雑誌などで自分で集めた情報と自分の症状がよく合う・・・
と、以上から「これは悪ィ病気にほぼ間違いない」と自己診断して独りで心配している人が来院します。
独断的ですから自分の訴えの矛盾に気が回らない・・・例えば・・・「唾液を飲み込むとひっかかる感じ」と言うので「では食事は?」と問うと「食事はOK」という。そこでパンは問題なく食うがミルクは飲みにくいということですね・・・パンとミルクどちらがのどを通りにくいか考えてごらんと半ば冷やかし気味に聞いても多くは聞く耳を持たない・・・私の話を理解しようとする余裕がない・・・のも特徴です。なにしろ本人は一大決心して来院したのだから「しっかり診て欲しい」というのが希望です。そこでリンパ節の触診で始まり、内視鏡を挿入して喉頭・食道入口部までくまなく検査します。まあ90%の場合何も所見がありません。時に舌根部の炎症・逆流性食道炎などが見つかることがありますが、ご心配の「悪いもの」は滅多にありません。もちろん、食物の飲み込む障害で喉頭までの検査だけでは不充分ですから、必ず食道内視鏡や食道透視をしなければ万全とはいえないので、必要あれば近隣の外科の先生にお願いします。
さて、以上のように検査を終えて癌が発見されず説明を始めますと、先に述べた「パンとミルク」の話にもよく耳を傾けてくれます。そして急に元気になって帰って行かれるのです。その後姿を眺めると私は嬉しいのです。独りで悩まれている方・心配されている方は・・・まあ「万が一を考えて」とか「健康診断なのだ」と自分に言い訳して思い切って受診しましょう。
・・・終わりに大事なこと・・・
検査後に「1ヶ月後とか2~3ヶ月後に再受診して下さい」と告げられた方は必ず守って再診を受けてくださいね。理由があるのですから。
・・・耳ざわりのよいお話を一つ・・・
タバコが肺癌の発症に深く関係していることは、タバコの箱にも警告が印刷されており、明らかな因果関係があります。肺癌になった人を調べてみますと100人のうち80人が喫煙者、20人が非喫煙者です。意外とタバコを吸わない人でも発症します。これに比べると耳鼻咽喉科頭頸部領域(鼻・口・のど・頸部)で扱う癌では、患者100人のうち95~97人がタバコを吸う人(吸っていた人を含む)で吸わない人は3~5人しかいません。タバコを吸わなければまず癌になりません。更に頭頸部の癌そのものが癌全体に占める割合は少ないのですから、ますます稀なことと言えます。
開院40年余りの当院の実体験を通しても、年間に見つかる10~15人前後の癌患者はすべて喫煙者と申しても過言ではありません(甲状腺癌を除きます)。タバコを吸わない人が発症した例は殆んどありません。
タバコはいけません。他の癌、食道癌、胃癌にも深い関わりがわかっており周りの人にも害を及ぼしますからお勧めしません。話が横にそれましたが、“病気を心配する病気”にかかっている方は早く受診してすっきりしましょう。