当院の「めまい外来」には種々のめまいを訴えて患者さんが見えますが、その中で最も人気?があるのが、「メニエル氏病」です。・・・・以下「メ病」と書きます。
何処でそう診断されたのかと問うてみると他処で「そうじゃないか」といわれた・・・あるいは自分で「そう思う」と頼りないこと甚だしいのです。
さて「メ病」はめまいの病気として有名ですが、めまい患者の中でしめる割合はせいぜい4~7%位で多い方ではありません。近年20~30年で倍増しており現代社会のストレスも一因と言われています。
「メ病」は内耳(蝸牛や三半規管)の病気です。耳の解剖図を思い出してください。耳の孔(外耳道)を奥へ進むと突き当たりが鼓膜です。鼓膜の裏の空間が中耳腔です。その更に奥の骨の中にカタツムリ(蝸牛)管と三つの輪(三半規管)があり、前者が音を感じ、後者が身体のバランスを感じ取ります。この二つは連なっており、側頭骨内にピッタリ埋まっています。これが内耳です。「メ病」はこの内耳に原因不明の浮腫・・・むくみが急に生ずることにより骨腔内の二つの器官が自らを締め上げる結果、蝸牛⇒難聴・耳鳴り、三半規管⇒めまいが現れます。難聴・めまいは数時間から数日続きます。
以上をまとめると、大事なポイントが3つあります。
1.聴力障害・難聴は必ず生ずる
2.回転性めまいはほぼ全例に起きる
3.以上の症状が同時に現れる
繰り返しますが特に大事なポイントは難聴です。めまい発作より大事です。
さて話をもどします。激しいめまいが始まると多くの方は「アー遂にアタマに来たか」とパニックになり、脳外科へ向かうようです。・・・が、たいていは検査も正常、めまいも何とか治まりなんとなく回復して「マアイイカ」となるか「じゃ耳鼻科でも行くか」・・・そうだ「メ病」なんて病気があったなぁ・・・あるいは診た先生も「メ病かもよ」と・・・なるらしい。早い話「思いつき」で話題になったあげく・・・「メ病」が出来てしまうらしい。これでは私達耳鼻科医は困ります。「メ病」はなかなかつらい難治性の病気です。しかし原因にその不明な点はあるものの治療法も確立しているのです。
「あなたはどうも癌らしい」の一言よりは軽いでしょうが「メ病らしい」もなかなか重い響きがあります。ジョークでは済まされません。
● もう一度まとめのポイントを振り返ってください。「メ病」では発作中難聴が必ず生じます。耳がつまった・・・耳閉感という表現で訴えることも多いです。「メ病」と言われた方や自称する患者さんに「聞こえ」について問診してみると・・・多くは聞かれたことも自問した事もないのです。くどくど申しますが聴力の低下のない「メ病」はありえないのです。聴力検査・・・問診さえ・・・も行われずに「メ病」の可能性や診断に考えが及ぶ訳もないのです。胸に聴診器も当てずに心電図も調べずに心臓病、血糖検査せずに糖尿病と言われて納得しますか?
「メ病」を話題にするとき「聞こえ」の質問がなければ話になりません。その質問を欠けば、それは単なる思い付き、ハッタリの類であって全く信用できないのです。
めまい外来でとても人気のある自称他称のメニエール氏病患者さんどうですか?真のメニエール氏病を見わける大事なヒントとなったでしょうか。