呼吸器は鼻からのどまでの「上気道」と声帯より下方の気管や肺の「下気道」とに分けられます。痰は口から吐き出される呼吸器の粘液性分泌物ですが、痰が生まれる場所も上気道からか、下気道から来るのかに分けて対処します。
「でも、口から来る痰がどちらから由来するか、どうして判るの?」なるほど、同じものですからね。そこで標題の「咳と咳ばらい」が意味を持つのです。
皆さん、水でもジュースでも誤って気管に入ったらどうなります?激しく咳込んで気管に入ったジュースを排泄しようとしますね。そうなんです、気管の異物を排除するには「咳」しかありません。声帯を閉じて胸郭内の圧を高めておき、一気に声帯を開いて突風で異物を吹き出す、のが「咳」です。
関連の病気を挙げてみますと、…肺炎、気管支炎、百日咳、喘息、異物、気管内出血、腫瘍など…気管内の炎症、刺激で咳を生じます。
それでは「咳ばらい」はどうでしょう。最も多い例は鼻がのどに落ちる(後鼻漏と申します)場合で…‘カーッペッ‘というように、のどに溜まった痰を吐き出すのが「咳ばらい」です。のどに小骨が刺さってもしきりと‘カーッペッ‘しますでしょう。「咳ばらい」は上気道に溜まった分泌物あるいは異物を吐き出す動作なので、「咳」とは全く別のものです。
どうですか、徐々に二者の違いが判ってきましたか?痰がのどにひっかかり咳も出る、と訴えを聞いても再度詳しく確かめると「コンコン」ではなく、「カーッペッ」の場合があるのです。具体例を挙げますと、耳鼻科に多い副鼻腔炎…ちくのう症で、後鼻漏をしきりと吐く「咳ばらい」として見られます。格好悪いですね。鼻出血においても出血がのどに回ると‘カーッペ‘と「咳ばらい」が見られます。
口腔血腫(口の中に出来る血まめ)がのどの奥の方に生じますと直視はなかなか難しく、更に破れますとのどのチクチク感と痰に血が混じります。その時出血部位を下気道(気管、肺)と早とちりした医師とパニックになっている患者さんとが組み合わさると、不適切な検査を受けたうえに胸のレントゲンなど無意味な放射線を浴びることになり、余計な出費もかかります。患者さんの訴えを少し掘り下げて尋ねて、病変の位置が上気道と確かめられれば、ほとんど治療らしい治療が不要なのに….。
以上のように真の「咳」か「咳ばらい」かの確認は病変の局所を決めるのに大きな意味があります。もちろん呼吸器全体に拡がる病変、例えば副鼻腔炎と気管支拡張症、アレルギー性鼻炎と喘息などを留意して対処しなくてはなりません。
まとめ :「咳」は主に下気道(気管、肺)から…
:「咳ばらい」は上気道(鼻、咽喉)から…